びわ湖の水草問題
近年、びわ湖の南湖では外来種のオオカナダモや特定外来種のオオバナミズギンバイなどの⽔草が、年によって異常に繁茂し、浜辺に漂着して異臭を放つなどの問題が発⽣しています。異常繁茂のメカニズムはまだ科学的に解明されておらず、びわ湖の⽔草は「えたいの知れない環境問題」と言えます。
びわ湖の湖⾯を管理する滋賀県は、⽔草の異常繁茂に対処するために、年間約6億円を投じて⽔草の除去を進めています。そして刈り取った⽔草を乾燥させて堆肥として配布するなどのリサイクル策も講じてきました。
この水草の異常繁茂は、滋賀県と研究者にとってはびわ湖の生態系に関わる「環境問題」と映っています。しかし、夏に⽔草の漂着する湖岸に暮らす住⺠と、住⺠からの苦情を受ける⼤津市などの基礎⾃治体にとっては、放置ごみと同様の「迷惑問題」です。このように、⽴場によって問題に対する理解が異なっていることにくわえ、湖岸から離れて暮らす住⺠は⽔草問題に対する関⼼が必ずしも⾼くないものと予想されます。
シビックテックとオープンガバナンス
いま、国内外で学術の知識を広く社会に開放するオープンサイエンスの動きが広がっています。また、市⺠がオープンデータと情報通信技術を活⽤して地域の課題を⾃主的に解決するシビックテックの動きが、市⺠が政策形成に直接参加するオープンガバナンスの実現につながりつつあります。シビックテックでは、多様なバックグラウンドをもつ参加者の⾃由で斬新な発想から、思いもよらない解決策が⽣まれることがあります。びわ湖周辺の⾃治体でも、シビックテックやオープンガバナンスの動きが始まっています。
このプロジェクトがめざすものと取り組むこと
この状況に着⽬し、オープンサイエンスにシビックテックの⼿法を取り⼊れることで、研究者が、⾏政や⽔草問題への関⼼はまだ⼩さいけれども地域貢献意欲の⾼い市⺠グループと協⼒する体制を整えていきます。このことによって、市⺠が主体となって⽔草を資源として活⽤する⽅法を⼀緒に考え、実現します。これを通じて、⽔草資源の活⽤に向けたコミュニティーを形成することが、このプロジェクトのねらいです。
このようなコミュニティーの形成に向けて、まず、びわ湖の⽔草問題に潜在的に関与しうる主体を特定し、協⼒を要請します。次に、びわ湖の環境と暮らしに関する住⺠意識を、アンケートにより調査します。その結果を市⺠と学⽣、社会起業家、研究者、⾏政職員など多様な主体が集うアイディアソン(事業構想ワークショップ)に提供して、⽔草活⽤のアイディアを⼀緒に創り出していきます。そして、実現可能なアイディアについては事業化として展開し、事業にかかわるひとびとの《つながり》を深めていきます。その過程で、びわ湖の環境と⽔草に対する意識がどのように変化したかも調べていきます。
地域のひとたちと一緒に考えるワークショップ(滋賀県草津市)
研究体制について
びわ湖の水草プロジェクトは、地球研のオープンチームサイエンスプロジェクトと栄養循環プロジェクトの共同研究として実施されます。研究にあたっては、三井物産環境基金からの研究助成を受けています。また、滋賀県琵琶湖政策課および大津市・草津市・守山市の担当課や、大津市のチーム水宝山、草津市のNPOくさつ未来プロジェクトなどと連携しながら、現地での研究実践を進めていきます。
私たちが取り組みます
氏 名 | 所 属 | びわ湖の水草にかかわる得意分野 |
淺野 悟史 | 滋賀県琵琶湖環境科学研究センター | 生態系 |
井嵜 弘美 | 総合地球環境学研究所 | 経理 |
石川可奈子 | 滋賀県琵琶湖環境科学研究センター | 生態系 |
岩本 葉子 | 総合地球環境学研究所 | 成果発信支援 |
奥田 昇 | 総合地球環境学研究所 | 生態系 |
加納 圭 | 滋賀大学教育学部/一般社団法人社会対話技術研究所 | 市民参加型パブリックコメント |
鎌谷かおる | 立命館大学食マネジメント学部 | 近世史 |
熊澤 輝一 | 総合地球環境学研究所 | 地域デザイン |
近藤 康久 | 総合地球環境学研究所 | ネットワーキング、GIS |
佐藤 賢一 | 京都産業大学総合生命科学部/NPO法人ハテナソン共創ラボ | ハテナソン |
下山紗代子 | 一般社団法人リンクデータ | シビックテック |
中原 聖乃 | 総合地球環境学研究所 | インタビュー |
藤澤 栄一 | 近江ディアイ株式会社/Code for Shiga/Biwako | オープンデータ、シビックテック |
松下 京平 | 滋賀大学経済学部 | アンケート、経済分析 |
脇田 健一 | 龍谷大学社会学部 | コミュニティー形成 |